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世界は、価値の鉱山だ。

「ブロックチェーン」と「仮想通貨」、主役はどっち?

佐藤航陽さんの『お金2.0』が大人気です。私にとっても間違いなく今年ベストの読書となりました。

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)

 

お金の本質、見えている未来図、そこに至るまでの道のり、それぞれがクリアに描かれつつ、すべてが一つの流れとして繋がっていることに気付かされる珠玉の一冊です。中でも、未来図である「価値主義」社会はあまりにも鮮やかで、誰しもが心奪われる世の中の姿ではないでしょうか。

ただ、未来図はいくら見つめていても「そうなったらいいなあ」という感想しか出てこないわけで、本当に大事なのはそこに至るまでの道のりです。こんな素晴らしい未来図に向けて、私たち一人ひとりは具体的に何ができるのでしょう。

この問いに端的に答えているのが、「経済は『読み解く対象』から『創り上げていく対象』に変化しつつあります」という本書のフレーズです。経済を創り上げるとは、一体どういうことでしょうか。

本書の中でも例に出されていますが、たとえばFacebookの「いいね」も、一種の経済システムとみなすことができます。経済システムとは、突き詰めれば人間の脳が喜ぶ回路をいかに刺激するかという仕組みであり、その意味で承認欲求を満たす「いいね」のやりとりも経済活動に他ならないということです。

ただ「いいね」は通貨ではないので、何か別のものと交換できるわけではなく、「100いいねはリンゴ○個分の価値」と表現することもできません。ここにイノベーションを起こしたのがビットコインであり、「通貨」すら含んだ経済システムを一般人が創り出せることを証明してしまったのです。

 
一方で、ビットコインとその基幹技術であるブロックチェーンについては、「最大の発明はブロックチェーンという技術であって、ビットコインという仮想通貨はその副産物・いちユースケースに過ぎない」とも言われます。注:仮想通貨やブロックチェーンについての詳細説明はここでは省きます。私が読み漁った中で、一番分かりやすいと思われたのはこちらの書籍です→ブロックチェーン入門 (ベスト新書)

確かにブロックチェーンの応用の可能性は多岐にわたります。特に最初に実用化が進むであろう分野は、単純にデータベースとしての特性を活用するものです。権利関係の証明や個人情報登録、サプライチェーン管理などにおいて、「データを改ざん・変更できない」というブロックチェーンの特性は間違いなくプラスに働くでしょう。

ただし、これはあくまでオマケのようなもの。ブロックチェーンの可能性が語られる中で、真骨頂とされているのは取引のP2P化です。これを目指す人たちから言わせれば、たとえばAirbnbUberもしょせんは中央集権型の手数料商売であって、真のシェアリングエコノミーはブロックチェーンによって初めて実現する、という主張さえあります。

結論から言ってしまうと、私はこのレベルのブロックチェーン万能論には懐疑的です。

 
ブロックチェーンという技術は、多分にイデオロギー的な側面を持っています。これはつまり「分散化」「脱・中央集権化」というもので、「権力の手から自由になる」みたいなリバタリアン的思想がブロックチェーンの魅力の大きな柱となっているわけです。取引のP2P化は、まさにその思想を体現するものだと言えるでしょう。

実際、ビットコインの原点にあったのもまさにリバタリアニズムでした。黎明期のビットコインを支えたのは、儲かる可能性以上に、その思想面に熱狂したギークたちです。

デジタル・ゴールド──ビットコイン、その知られざる物語

デジタル・ゴールド──ビットコイン、その知られざる物語

 

しかし2013年頃、キャズムを超えようとするステージで、イデオロギー派のギークたちはことごとく淘汰され存在感を失っていきます。そこから本当にビットコインを羽ばたかせたのは、既存の権力との折り合いをつける現実感覚を持った実業家たちでした。

イデオロギーの脆さをもっとも分かりやすく象徴するのが、取引所の存在です。仲介業者を介さなくてよいことが最大の売りであるはずのビットコインをやりとりするのに、大多数の人はわざわざ取引所という仲介業者を使っています。「自由」は裏を返せば「自己責任」であり、人はそれより「誰かに管理してもらうこと」を選ぶ場合も少なくないということです。

ブロックチェーン万能論は、この人間の性質を無視してしまっています。仲介業者を介さない直接取引という「選択肢」が生まれることは素晴らしいことですが、それが主流になるという想定は少々素朴すぎるように思うのです。

 
ひるがえって、ブロックチェーンの副産物とも言われる仮想通貨。その由来はともかく、今となってはイデオロギーとは無関係に、参加者個々人のインセンティブを反映して生き物のように動いています。

ビットコインの登場以前は、発行政府が異なるという違いはあれど、基本的に世の中には「法定通貨」という一種類のルールに従って動く通貨しかありませんでした。それが今や、仮想通貨に様々なプロトコルを埋め込むことで、「コンテンツの質を表す通貨(Steem)」「人の影響力を数値化した通貨(Synereo)」など、全く異なるルールの経済システムがいくつも開発されています。

現在数百と言われる仮想通貨が、日々より良い経済システムを目指してコードに修正を加えられています。そして人気の無い通貨=経済システムは淘汰され、より魅力のある通貨=経済システムが勝ち残っていくのです。

ビットコインもそうでしたが、通貨は時に人々が予想もしないような挙動を示します。理想論やイデオロギーではなく、人間の合理性も非合理性もすべて織り込まれた「現実」が実験結果として示され、それを踏まえて経済システムが日々進化していく。

これほど面白いことがあるでしょうか?

 
仮想通貨が巻き起こしている、この「経済システムの多様化と生存競争」にこそ、もっと注目し積極的に参加していくべきです。ビットコインの最大のイノベーションブロックチェーンを使っていることではなく、法定通貨とは異なる通貨・異なるルールの経済システムを、世界規模で成立させてしまったという事実なのです。

この現象を加速させた先に、「お金」の呪縛から解放された新しい世界が待っています。法定通貨という意味での「お金」は数ある経済システムの中の一つでしかなくなり、多様な尺度の中から自分が支持する「価値のあり方」を選ぶことができる。それこそ、この数世紀で最大の発明ではないかと思います。