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Aruku Blog

世界は、価値の鉱山だ。

「農家のサポート」こそ、今ほんとうに熱いビジネスモデル

日本

ビジネスの広がりには、垂直統合と水平分業という2つの典型的なかたちがあります。

たとえばユニクロのように、企画→調達→生産→流通→販売、といったような「川上から川下まで」の流れを、1社でできるだけ手広くカバーできるようにしようというのが垂直統合の戦略。

逆に昔のマイクロソフトのように、自社はOS開発に専念しつつ、PCの部品、筐体、あるいはアプリといった他分野は他社に任せ、各プロセスをそれぞれのスペシャリストが担うような形に持っていくのが水平分業です。

これらは本来どちらが良い悪いというものではありませんが、水平分業には、ハマりがちな落とし穴というものがあります。

それは、「専門化という逃げ」です。日本人の気性はもともと、ちょっとこれに陥りやすい傾向であるようにも思えます。

スペシャリストと言えば聞こえはいいですが、結局は自分が心地よい領域に安住してしまい、あとはまた別の「スペシャリスト」が上手くやってくれると考えて想像力を広げない。自分の領域に与えられた課題にだけ粛々と取り組んでしまう。

特に、モノ・サービス作りの向上に集中するあまり、マーケティングの視点を放棄してしまうのはビジネスとしてかなり致命的といえるでしょう。

「この商品の性能をあと10%改善するには?」のような、明確な答えが見つけやすい問題に比べて、「お客が本当に求めている価値とは何か?」「この商品の適正な値段はいくらか?」 のように、絶対的な答えのないマーケティング的思考は、日本人が不得手とするところでもあります。

そこで生まれやすいのが「愚直に良いモノやサービスを提供していれば、あとの結果は自然と付いてくる」みたいな考え(というか思考停止)。

これは決して真実とは言えないのですが、自社に代わってマーケティングという「ややこしいもの」を請け負ってくれる誰かが現れると、ついつい任せたくなってしまいます。

 

前置きが長くなってしまいましたが、この「専門化という逃げ」が日本でもっとも強力に働いてしまっている分野が、農業です。

農業は今、実はもっともポテンシャルの高い産業であると言われたり、あるいは問題の多い産業であるとも言われますが、さまざまな問題のもっとも根本にあるのが「専門化という逃げ」なのです。

もちろん例外は色々ありますが、農産物のもっとも基本的な流通ルートは、各生産地ごとに存在する農協による買い上げです。

農家と農協の間の価格交渉もあるにはありますが、一度ニンジンの価格が決まったら、Aさんが作ったニンジンも、Bさんが作ったニンジンもひとくくりに同じ価格が適用されます。

もちろんAさんもBさんも、ニンジンの生産量が増えるような工夫は色々とこらすでしょう。でもそれ以外のポイント、たとえば味や安全性、栽培方法のこだわりなどで、差別化を試みるインセンティブはきわめて小さいと言えます。

マーケティングの4Pでいえば、この場合に農家が自分で考えているのはProduct(商品)、つまり作物の種類だけ。あとはPrice(値付け)も、Place(販路)も、Promotion(販促)も、農協に持ち込んだあとはどうなっているか知りません、ということになります。

 

こういった従来的な農業から脱しようという取り組みの一つに、よく「6次産業化」と呼ばれるものがあります。

第1次産業(農林水産業)だけでなく、そこに食品加工という第2次産業や流通・販売という第3次産業も足し合わせる、1+2+3=6次産業だ、というわけです。

「農業起業」の本って実はけっこう多くてどれも面白いのですが、彼らの成功パターンはほぼ100%これです。

しかし、よくよく考えればこれがわざわざ造語を用いて新しい概念のように言われること自体、少しおかしいのです。流通や販売を自分でこなす垂直統合は、工業のような第2次産業であればごく普通のことであり、じゃあそれは2+3で5次産業なのか?という話になります。

もちろん農業の垂直統合が難しいのには、それなりの理由があります。自然を相手にする農業は、ある意味で工業以上に複雑で高度なサイエンスの営みです。その生産をきちんと維持・管理するだけでもかなり大変なことで、各農家が自己負担でやっていくのは相当難しいものがあります。

だからこそ農協という組織が生まれたわけですし、農家が加工や流通・販売まで手を出そうという気が起こりづらいのは、ある意味当然でもあります。

 

たとえばこの会社、相当おもしろい事業をやっています。まさにユニクロのモデルを参考に、農産物の生産から販売までを統合することをビジネスの軸としているのです。

agrigate.co.jp

社長さんのインタビュー記事も興味深いのですが、そこでこのビジネスモデルの難しさとして説明されているのが、「短期間での急成長・急拡大は見込めない」ということ。

ascii.jp

それはなぜか。もっとも直接的な理由は、自然を相手にする農業のPDCAのスピードの限界でしょう。消費者のニーズをつかんで「こんな農産物が売れる!」と言ったって、工業製品のように製造ラインの設定をいじってすぐに対応する商品を出せるわけではありません。

農業に取り組もうと思ったら、まさに「長期戦の覚悟」で、どっしりと腰を据えて身を置く必要があるのです。

 

さて、「従来の農業」に問題があるなら、「農業起業」の方々や旬八青果店さんのように、「新しい農業」をつくることは当然ひとつの答えです。でも、そこには相当の覚悟が求められる。

そこでもうひとつの考え方は、「農業を新しくする」お手伝いではないでしょうか。自分で農業生産にまで参入しなくても、農家の方々がマーケティングに取り組むハードルを下げたり、サポートを提供することには、かなりのニーズがあるはずです。

販路開拓やブランドデザイン、プロモーションなどといったサービスは第2次・第3次産業ではごく当たり前に存在していますが、こと農業においてはまだまだブルーオーシャンと言ってよいでしょう。

 

特に大事な論点は「地産地消」分野のマーケティングです。

まず農産物というもの自体、贈答品のような限られた機会をのぞいては、あくまで嗜好品というよりも必需品の色合いが強い。わざわざネット通販まで使って選り好みするよりも、近所で買うことの方が圧倒的に多いということです。

そして農家の側としても、例えば千疋屋に卸す高級フルーツを作っているようなところでも、農業である以上そのような「高級グレード」からは外れる果物がどうしてもいくらかの割合で生まれてきます。

だから、全国各地から自慢の逸品が集まる「メジャーリーグ」のようなマーケットももちろんあって良いけれど、それ以上に、各地それぞれの「草野球」のようなマーケットを活性化することが大事なのです。

 

近所の家庭の日常の需要に応えつつも、「だからどうせ何をどう売っても同じだろう」ではなく、そんな中にこそちょっとした差別化のチャンスを見出し、考えながら農家といっしょに戦っていく。

どう考えても簡単ではありませんが、やれたら絶対面白いビジネスです。しばらくアイデアを練ってみたいと思います。