aruku note

世界は、価値の鉱山だ。

SNSの斜陽と、新しい「旅」のチャンスを考える

「旅」の持つ意味合いは、SNSの登場で大きく変わりました。正確に言うと、特定の意味合いを持つ特殊な「旅」を志向する人が、とても増えました。

SNSにアップするための旅。写真に映える旅。人の目を引く、インパクトのある旅。

これらもれっきとした「旅」の一種類ではあり、否定するつもりは無いのですが、それだけが旅ではないし、そればかりしている人はもったいないなぁ、と素朴に思います。

幸か不幸か、SNSというもの自体、一定の距離を置いて眺められる時代がやってきました。SNSに没頭するのは、ちょっと格好悪い。「SNSあるある」のようなメタネタが面白がられる。だからといってすぐにSNSが無くなるとはまったく思いませんが、一時期の勢いを失くしていくのは確かでしょう。

「旅」を見直す

SNSの呪縛から離れて、「そもそも、旅とは何なのか」をもう一度考えてみましょう。

本来とてもブログの一記事で語れるようなテーマではなく、古今東西さまざまな旅人がこの問いに挑戦していますが、私なりの答えは「日常の相対化」です。

日常が絶対化すること、つまり「日常」が自分にとっての世界のすべてになってしまうことは、幸せか不幸せかというよりも、危険です。「日常」が楽しいときは、それに没頭してしまうのも良いかもしれない。でも、「日常」が辛いもので、それが絶対化してしまったら、まるで世界がまるまる自分の敵であるかのように思えてしまう。

連戦連勝、順風満帆の人生を送っているのでない限り、「世界は自分の『日常』の外にも広がっている」と定期的に自分に気付かせてあげることは、自己防衛のための大切な知恵なのです。

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もう一段階掘り下げてみましょう。「日常の相対化」とは、何によって得られるのか。

一つの答えは、「非日常」に触れることです。SNSにアップするための旅も、多くはこれに属するでしょう。

これはこれで、私は好きです。思い出に残りやすいし、アルバムを見返しても、やはりこういう旅が一番華やか。できれば年に一度くらいは、こういう旅をしたいなと思っています。

これからの「旅」の価値

日常を相対化するためのもう一つの解は、「他の日常」に触れることです。

東京に来た観光客を例に考えてみましょう。外国人なら特に、鉄板の行き先はやはり浅草寺です。間違いなく人気No.1でしょう。

一方、私が外国人のお客さんをよく連れて行って意外と喜ばれるのは、新橋だったり、新宿・渋谷の横丁だったりといった赤ちょうちんの飲み屋街です。

両者の違いは何か。浅草はほとんどの現代東京人にとっても「非日常」です。一方、赤ちょうちんの飲み屋街は観光客から見れば面白いけれども、多くの東京人にとって「日常」である、つまり外から来た観光客にとっては「他の日常」なのです。

浅草のような「非日常」に触れるのが「コト・モノ」に焦点を当てた旅であるのに対して、飲み屋街のような「他の日常」に触れるのは、「ヒト」の営みに焦点を当てる旅になります。

「他の日常」に触れると、人間の世界はこんなにも広いじゃないか、と思えます。

みんなそれぞれ悩みも辛いこともあるんだろうけど、何だかんだ言いながら生きている。たかだか自分の周りで問題が起きているからって、世界中の人たちが自分を責めるわけでもない。

辛いときは価値観の軸がいつの間にか狭められて、「◯◯が得られれば幸せ、得られなければ不幸せ」と考えがちですが、人の価値観がいかに多様か、幸せの見つけ方・感じ方はいかにたくさんあるか、「他の日常」に触れることでしばしば気づかされます。

「非日常」を求める旅の異様なフィーバーがSNSの斜陽とともに徐々に落ち着いていくであろう今後、「他の日常」に触れる旅の価値は自然と相対的に見直されるでしょう。

これからの「旅」の市場機会

そんな中で、ビジネスチャンスを見出せる分野の一つは旅行ガイドです。

TripAdvisorなどの旅行情報サイトでツアーの情報を探すと、すでに多くの場所で、ユーザー満足度の上位には個人や小規模で地元運営している旅行ガイドが食い込むようになってきています。

実際、最低限の語学力と危機管理意識さえあれば、「地元」のプロで、「小規模」ゆえの柔軟な対応をしてくれるガイドさんの方が、明らかにメリットは多いです(しかも安い)。

一方、例えば団体ツアーのように、何かの「コト・モノ」を見るために最適な旅の形を追求してしまうと、その時点であなたが属するのは「観光客の集団」であって、「その土地の日常」の中のひとりとして溶け込むのはどうしても難しくなります。

「地元の日常」を味わうツアーを実現しやすいということの価値が気付かれれば、今後さらに「地元・小規模」型の旅行ガイドのチャンスは広がるのではないでしょうか(というか私自身、帰国したら週末だけでもやってみたいと思います)。これまで大きな壁であった「信頼性」がTripAdvisorのようなレビューサイトで取り払われると、団体ツアーの優位性はもうほとんど存在しないように思えます。

地元の日常を味わう旅。例えば東京なら、こんな行き先が入ってくるでしょう。

  • 赤ちょうちんの飲み屋街
  • 皇居ラン(ランステという世界に類を見ないおもてなしシステムで快適ランニング。特に欧米人は旅先でのランニング好きが多い)
  • 野球のナイター(ビールと応援歌を楽しむ、日本独特の観戦スタイル)
  • スーパー銭湯(この世の天国)
  • アニメ・マンガ体験(コアファン向けばかりでない、「普通の大人」もハマれる文化。ところで英語翻訳版の日本マンガを取り揃えたマンガ喫茶というのも相当ニーズある気がするんですが、まだどこにも無いなら起業してみようかしら)

「地元民にとっては日常だけど、ゲストにとっては日常でなくて面白いこと」を、「単なる日常」と嗅ぎ分けるのは、少し難しい。「非日常」の観光スポットを紹介するよりは、はるかに頭を使わなければなりません。

そういう価値を見出す嗅覚は、どうやったら得られるのか。

ここでも答えは、自分の日常を相対化すること、ですね。