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世界は、価値の鉱山だ。

LinkedIn日本版リニューアルが示唆するもの、私たちに必要な備え

日本でいまいち市民権を得られていないLinkedInが、新代表を迎えリニューアルするそうです。

www.nikkei.com

Sansanのヒットを受けて雨後の筍のように名刺管理サービスが乱立しているこのタイミングで、目指すビジョンが「日本から名刺をなくす」というのは何ともロックでクールです。しかし、私自身も登録したまま数年ほったらかしになっていたLinkedInを、改めて一週間ほどいじり倒してみたところ、このビジョンは単にロックでクールなだけじゃないということがよく理解できました。

現状のLinkedIn(特に日本版)は、なぜイマイチ使いづらいのか。私が使ってみて感じたのは主に3つのギャップです。

1.ストック型かフロー型か

きょうびSNSといえばホーム画面にフィードが流れるのが王道中の王道で、LinkedInもその例に漏れません。これはつまり、ユーザがカチャカチャ操作しなくても情報が能動的に舞い込んでくる「フロー型」の構成です。

このホーム画面を見た無知な私は、てっきりTwitterやニュースアプリのように、いかに自分好みの情報が流れてくるかをチューニングすることがLinkedIn活用の肝かと思ってしまいました。しかしLinkedInでこれをやっても一向に劣化版Twitterの域を出ず、まったく使う気が起きません。

むしろこのサービスの本質的な価値は、「ストック型」だと思われます。その場その場で情報を生み出してはユーザに消費させるのではなく、蓄積されたデータベース(個人や企業のプロフィール情報)をユーザ側に能動的に活用してもらうことで輝くサービスです。

フロー型サービスの圧倒的なメリットとして、明確な目的意識がないユーザにも「とりあえず」ホーム画面を開かせやすく、そこからアクセス・トラフィックを稼げるという強みがあります。このご時世にそのメリットを完全に捨てることは難しいのかもしれませんが、ストック型の側面をもっと推してくれたら、何をすればいいサービスなのかは遙かに分かりやすくなるのではと思います。

LinkedInといえば自分に合った求人情報が流れてくること(フロー)が一つの売りではありますが、その点「名刺の代替にする」というのは、まさにストック的な側面から捉えた価値提案になっているわけです。

2.転職支援か自己紹介か

LinkedInといえば転職・キャリアアップの味方というイメージが根強く、少なくともグローバルにはそこを事実上最大の訴求点としたサービスになっています。

一方、少しずつ変わっているとはいえ未だ転職へのハードルが高い日本では、転職を希望していると周囲(特に社内)に知られるだけでもマイナスになるのでは、という心理的な抵抗感があります。社会の受け止め方がどうあるべきかという理想の話は一旦置いておくと、それが今の日本のまぎれもない現実です。

サービスの訴求点が「転職支援」である限り、「LinkedInに登録していたら、転職したいと周りに伝わるのでは」という可能性がユーザの頭をよぎり、余計なハードルが立ちはだかってしまうわけです。

よってここでも「名刺の代替にする」という価値提案が意味を持つことになります。転職云々関係なく、純粋にビジネスマンのための自己紹介・ネットワーキングツールという側面が前面に打ち出されていれば、日本人にとってもLinkedInを使うことの抵抗感がぐっと減ることは間違いありません。

3.アピールか謙遜か

最後に日本特有のギャップとして、謙遜の美徳があります。さすがに就職・転職希望先に出す履歴書ともなればみんな自分の経歴・スキルをアピールしますが、それをSNS上に直截的に公開するとなると、どうも気が引ける人は少なくないはずです。

私自身、英語を使うときは何となく頭も英語モードになるので、英語で書いているLinkedInのプロフィールはわりと欧米的に「こんなすごい実績あるよ」「こんなスキルを磨いてきたよ」と臆面も無く書いています。

でも、LinkedInが日本でもっと普及して、会社のオジサンにこんな謙虚さのかけらもない文面を見られたら……。また、日本語でLinkedInを使うことがもっと一般的になったとして、自分は日本語の思考回路でも同じように「これがワイの経歴・スキルや」などと言えるのか……。

単に「名前と会社と肩書き」が分かるだけでは名刺を超えるような付加価値は何も無いので、「名刺をなくす」ためには、やはりその人についてもう一歩掘り下げた情報が見られなければいけません。しかも単なる趣味や興味を書かせたのではFacebookとの差別化ができないので、やはりある程度ビジネス的な切り口の情報、つまり経歴・スキルのようなことを書かせる必要があるのではと思います。

この点に対して新・日本版LinkedInが何らかの答えを持っているのかは未知数ですが、楽しみに注目していきましょう。

これからの「自己紹介」

「リニューアルを機にLinkedInが日本でも爆発的に普及し、ビジネスマンの必須装備になる」とまで言えるかは正直まだ分かりません。しかし少なくとも、名刺管理が一つのトレンドとなっている今、既にポスト名刺管理の発想が出てきていることには関心を向けるべきです。

名刺はその人の「今」を切り取ったスナップショットでしかなく、そこに至るまでの経験や思想といったストーリーを何も語ってくれません。そんな名刺が未だにビジネス自己紹介ツールの中核を成しているのは、日本のキャリアに対する意識の薄さの現れといえるのではないでしょうか。

日本で「キャリア」というと何か鼻持ちならない、ネガティブなニュアンスが払拭されていない気がします。しかしこれほどITツールが発達した時代に、キャリアに光を当てず「名前と会社と肩書き」で自己紹介が完結することの方が、よほど不自然ではないでしょうか。

「出世」をバロメータに仕事をしてきた人が、明確なストーリーある「キャリア」を高めてきた人とさほど区別・差別されていないのは、昔ながらの日本企業ムラだけです。このムラの寿命があと何年あるのかは分かりませんが、ムラの伝統を信じ続けることにもはやメリットが無いことは既に間違いありません。